「わたしのマンスリー日記」第17回 「死なないでください!」

 事後報告によると、データは鹿児島から福岡までの新幹線の中で作り直したそうです。やはり、できる教頭先生ですね。
 結果、スピーチは大成功だったようです。「谷川先生にいただいたアドバイスのとおり、シンプルに1本の筋を通して話しました。足もとに授業のたねを校章から考えることが、参加者にはちゃんと伝わったようです。授業後に、自分の学校の校章を見ましたというメールが来ました」という報告の後に、「次々と大量の情報を提示して、畳みかけるのは、聞き手のことを考えていないなと反省しています」とありました。まさにその通り。
 参加者からは、「身近にあるものから、何でも授業にできるということに気付いた。コンテンツがおもしろい。落語家みたい」といった感想が寄せられた他、ある高校生からは、「自分も社会科教師になりたい」というリフレクションをもらいましたともありました。
 メールに添付されていた写真を見て驚きました。聴衆の一人ひとりが例外なく講話者の山口さんに笑顔を向けている。素晴らしい笑顔です。この私が嫉妬心を感じるほどの雰囲気です。
山口小百合先生、大成功ですよ(拍手)。おめでとう!

 本章でなぜ山口小百合さんのケースを述べたかについて、若干のコメントを添えておきます。エンジン01in市原で公表した「生きる」宣言のタイトルを「人間は人間を幸福にできる」としました。この表見は学部1年次にゼミでご指導いただいた梅根悟(1903~1980)先生(東京教育大学名誉教授、和光大学初代学長)のご著書『世界教育史――人間は人間を幸福にできる、その考え方の歴史』(光文社、1950年)から拝借したものですが、この本を読んでから60年間「教育は人間を幸福にするものでなくてはならない」と固く信じて、学問活動を続けてきました。
 ALSという過酷な運命にされようとも、その思いに変わりはありません。だから、私の生き方から勇気と元気をもらったという人が一人でも二人でもいる限り、その方々のために生き抜いてみせます。

谷川 彰英 たにかわ あきひで 1945年長野県松本市生まれ。作家。教育学者。筑波大学名誉教授。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。千葉大学助教授を経て筑波大学教授。国立大学の法人化に伴って筑波大学理事・副学長に就任。退職後は自由な地名作家として数多くの地名本を出版。2018年2月体調を崩し翌19年5月難病のALSと診断される。だが難病に負けじと執筆活動を継続。ALS宣告後の著作に『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(2020年)『日本列島 地名の謎を解く』(2021年)『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(いずれも東京書籍刊)がある。

(モルゲンWEB2024)

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